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楽しい楽しい食事会




 私には、心の底から尊敬している学生時代の先輩がいます。

 もう45年も経ちますが、私が大学の学部を卒業し、植物生理学を研究すべく大学院修士課程に進学した時、3級上、博士課程の2回生に在籍されていたのがT氏です。私共が所属するその頃の「応用植物学講座」ではアサガオやアオウキクサ(写真は水田に浮かぶアオウキクサ)を用いて開花のしくみを探っていました。T氏は頭脳明晰、探究心旺盛で研究室のリーダーでした。その後の2年間、先輩と同じ実験台に向かう日々を送らせて頂いた思い出は人生の宝物です。

 私は周囲の俊才を見るに、自分の能力では研究職に就くのはムリと判断し、修士過程修了で学生生活にピリオド、帰省して高校教員となりました。T氏は、博士過程を修了し、博士号を取得。研究の場をアメリカに求め、スミソニアン研究所に留学、帰国して、神戸市にあるK大学理工学部に奉職、助教授から教授として研究、教育に大いに力を尽くされました。現在も同大の特別客員教授を拝命されています。
 氏の専門は植物生理学ですが、植物に対する幅広い学識は驚くばかりで、これまでに20冊を超える植物に関する啓蒙書を出版されています。その深い学識に加えて、的確で分かり安い解説能力は抜きんでており、巷間「ミスター植物学」と称され、メディアによく登場されます。日本テレビ「世界一 受けたい授業」やNHK「アインシュタインの眼」などにも白衣を着て出演されました。ラジオの夏休み人気番組「NHK夏休み子ども科学電話相談」(今、冬休みにもあります)のレギュラー講師でもあります。まったりした京都弁の語り口は子どもだけでなく大人のリスナーからも大人気です。

 そのT先輩は、私ごとき不出来で名も無き後輩を見捨てずここまでお付き合いをして下さっています。5月末にお電話があり、「東本願寺の月刊誌『同朋』6月号にボクの対談記事が掲載されるので機会があれば見といてよ」とのこと。(写真はその表紙)
 早速入手して、読ませていただきました。9ページにわたる大派の日野詢城師との対談はうまくかみ合っており、植物のたくましい生き方がよく伝わってきます。

 そのT氏が、6月29日夜、私を食事に誘って下さいました。私はその日、近同推の総会・研修会のため、西本願寺に行っておりましたが夜はフリー。T氏は宝塚市であった市民向けの講演会に出議することになっているが、夕方には京都に帰る(T氏の自宅は京都市内)ことができるからと、私のために時間をつくって下さいました。6時に京都駅の改札口で落ち合い、伊勢丹最上階の高級寿司店での会食となりました。寿司店と言っても、ここ何年かは「お皿が回るお店」しか行ったことのない私にはその日のお寿司・お料理はこの世のものとは思えない美味しさで、瓶ビールが次から次へと空いていきました。
学生時代の同輩、先輩のこと、恩師のことそして植物のことをいっぱいいっぱい話しながらの2時間、楽しい楽しい二人食事会でありました。

 さらに当日、その4日前に出版されたばかりの新作「植物のひみつ」(中公新書)(写真はその表紙)にサインをしてプレゼントしてくれました。植物についての新たな知見があふれる書で、読み進めてゆくのが楽しみです。
 翌日朝、先輩からメールが届きました。前夜、私が話していた「仏教の三大聖木」に興味を抱かれたようで、「それが見られる植物園を教えて」と尋ねて下さいました。近くでは「京都府立植物園の大温室」、草津市の「水生植物公園『みずの森』の温室」にありますよとお答えしましたが、三大聖木のうち、サラノキが日本の植物園ではほとんど開花しません。2003年4月に「みずの森」で開花したのが日本初、他には東京夢の島熱帯植物園で何年か前に開花したとの報告がある程度、「みずの森」はそれ以来毎年咲いているとのことでしたが、今年は開花がみられなかったようです。先輩にはなぜ、サラノキはこんなに開花しにくいのか解明してほしいとお願いしておきました。
 「同朋」誌については、T氏の対談記事の他、 「仏教の視点から」と題する同朋大学の福田琢教授の文章が私の関心を引きます。

 「春に芽吹いて花開き、秋には実り、やがて枯れ果て散って行く草木は、あらゆる生命がたどる生・老・病・死の様相をありありと示しています。その意味で、植物こそ生命現象の縮図である、とも言えるでしょう。ただ私たちと違って草木は、衰え死にゆくことへの不安や迷いを見せません。時がくればもの言わずただ静かに散り、腐葉土となって次の生命をはぐくみます。これこそが理想の『涅槃』の境地なのではないか。動ずることなく諸行無常を従容と受け入れる草木のあり方こそ、仏のいないこの世界で私たちに「さとり」を示すお手本なのではないだろうか。」
 と四季折々の草木の変化に「さとり」を見いだす日本仏教の感性を指摘されています。この文章の中で「飛華落葉」という言葉と意味を知りました。(写真は「同朋」誌18・19ページ)

 T氏は著書や講演で植物の持つ底知れない「能力」を紹介して下さっています。毎年、8月末(8・31ヤサイ)に和歌山市のフォルテワジマで開催される『野菜フェスタ in WaKaYaMa 』に2015年以来毎年出講されています。もちろん今年も来られます。講演中、会場は笑いに包まれますが、「植物ってすごい!アッパレ!最強やな!」と目からウロコの植物学講座が展開されます。入場無料でどなたにも開放されています。是非の聴講をお勧めします。
 なお、今年のNHKラジオ「夏休み子ども科学電話相談」へのT氏の登場は7月23〜26日でした。お聞き逃された方は昨年から冬休みにもやっているとのこと。聞いてみて下さい。

           南無阿弥陀仏  南無阿弥陀仏



御坊組組長
湯川逸紀(三宝寺住職)


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