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天高く「鯉」肥ゆる秋 



 私は自坊の小さな池に数十匹のメダカと19匹の鯉を飼っています。 フツウメダカは昔、子育てのなかで、水田からすくってきたものが代を重ねたものです。 少し赤、白、青の色がついたものも少数います。 これらは何年か前、本願寺日高別院で行われた「キッズサンガ」という子ども祭りで一番人気だった「メダカすくい」で孫がゲットしたもの、それぞれの数は増えませんが、なんとか生きています。

 この池は祖父が「前本堂の建築時、防火用水をためておくために掘ったもの」と話していたことを記憶しています。 池の周囲はナメラの岩で特に漏水防止のためのモルタル塗りもしていません。良い水脈があるのか、雨の後、地下水が池を満たしてくれます。 よほどの干天が続かない限り水を補うこともありません。 池の底にかなり泥が貯まっており、睡蓮と蓮も元気に育っています。



 この池で鯉たちに最も辛い悲劇が起こったのは2018年9月の台風21号が当地を襲った時。 寺の建物には大きな被害はありませんでしたが、大量の落葉・落枝が池を埋めてしまいました。 それからは境内の片づけに追われ、池の清掃までは手が回りませんでした。 長く放置したお墓の花立ての水が腐るのと同じこと、この池は、そこそこの大きさがあり、水量もまあまああって、それまでは多少の有機物が入り込んでも「自然の浄化力」で腐敗することはありませんでした。 台風の後、気が付いた時は池の水は真っ黒、泡がブクブク、酸欠がどんどん進んで池のコイたちは体の大きい順に浮き上がって死んでゆきました。 20匹ぐらいあったものが全滅、メダカは残りましたが、非常に可哀想なことをしました。

 それ以来、池には生き残ったメダカだけでしたが、今春、業者にお願いして池の水を抜き貯まった泥を取り除いてやりました。 そしてヤフオクで新しい体長10cmくらいの鯉(幼魚)20匹を求めました。 今それらは20cmを超える大きさに成長し、胴回りも随分肥えてきたように見えます。

 ただ、5月始め、体の半分が食いちぎられた1匹の緋鯉が見つかりました。そのそばにはあの外来生物大きなアカミミガメがいるではありませんか。 昨年もウジャウジャ生息する西川から山を登ってこの池に入り込み白蓮の蓮根を食べつくしました。それは退治しましたが、またしても侵入し、可愛い鯉を襲いました。 急いで知人からズガニ(ズンゴ)網をお借りして捕獲しました。油断も隙もありません。

 この池には嬉しい来訪者もあります。先日この池にカワセミがやってきました。何を狙っていたのかわかりませんが、エサとしてはコイは大きすぎ、メダカは小さすぎます。 しばらく「鶴石」の上から水面を見つめていましたが、暫くしてどこかへ飛んで行ってしまいました。

 またお彼岸ごろにはコイを狙うアオサギ除けに池の上に張り巡らしているテグスに赤トンボの一種ナツアカネが羽を休めていました。この池はちょっとしたビオトープです。

 年をとると、ペットもイヌを飼うと朝夕の散歩が面倒、特に娘一家に押し付けられたわが家のトイプードルは全くしつけられていないので鳴きだしたら止まらない。 お下の方もアチコチでたらめ。それに比べ鯉は素晴らしい。朝夕、コメリで買ったエサをパラパラとまくとすぐ浮かんできて愛らしい顔を見せてくれます。もの静か、動きはゆっくり、見ていて心が和みます。
 私どもは今年が「年男」、楽しく盃を交わした仲間も体調を崩す人が多くなり、思うように交流できません。唯一の家族、坊守とも話のネタは尽きました。しかし、今、19匹の鯉だけは寄ってきてくれます。 天高く「鯉」肥ゆる秋、しっかり食べて大きく育ってほしいものです。

              南無阿弥陀仏   南無阿弥陀仏


                            三宝寺住職 湯川逸紀










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